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2022.04.11

コスギーズ!(人形劇団ひとみ座)

取材記事

コスギーズ!とは…

利便性や新しさだけでなく、豊かな自然、古きよき文化・街並みもある武蔵小杉は

「変わりゆく楽しさと、変わらない温かさ」が共存する素晴らしい街です。

そんな武蔵小杉の街の魅力をお届けするべく、この企画では街づくりに携わり、

活躍している人をご紹介していきます!

 

武蔵小杉の駅周辺には、魅力的な商業施設がいっぱいありますが、少し駅から離れると、豊かな自然と四季の移ろいを感じられるスポットがたくさんあります。

例えば、ブレーメン商店街を通り抜け、さらに進んでいくと尻手黒川道路を越えた先の井田・市民健康の森、矢上川があります。そこに流れ込む江川せせらぎ遊歩道などにも、四季折々の草花が咲き、鳥が集まっているような光景を目にすることができます。

そんな自然豊かな水辺のエリアに、一際存在感をもって佇んでいる趣のあるビルがあります。

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(ひとみ座スタジオ外観)

 

「ひとみ座」と書かれたそのビル。そのエントランスロビーに展示されているのは…どこかでみたことがある人形たち!?

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(ひとみ座ロビーに飾られた、ドン・ガバチョとその仲間たち)

 

ある世代以上の人は、この写真を一目見ただけでピンとくることでしょう。ここは、あの大ヒット人形劇「ひょっこりひょうたん島」を生み出した「人形劇団ひとみ座」の本拠地なのです。

 

今回は、設立から70周年を超え、この地域に根を下ろした「人形劇団ひとみ座」の代表である中村孝男(なかむらたかお)さんと、事務局長も務める友松正人(ともまつまさと)さんに、人形劇の魅力や、地域での活動について教えていただきました。

 

人形劇に魅せられて

 

人形劇団ひとみ座は、1948年(昭和23年)に鎌倉で産声を上げました。戦後の復興とともに、人々の生活の中に文化・芸術への憧れが育ち、大人も子どもも楽しめる娯楽のひとつとして人気を博したのが、1964年(昭和39年)にテレビで放送が開始された人形による音楽劇「ひょっこりひょうたん島」でした。この成功は、ひとみ座の名を全国区にし、劇団は日本で5本の指に入る人形劇団として成長していきました。

 

友松さんと中村さんは、そんなひとみ座が人形劇団として成熟し、様々な新しい表現を模索している時代に入団しました。一般的に人形=子どものイメージがありますが、大人の男の人にその情熱と一生をかける仕事として選ばれるだけの魅力が、人形劇にはあります。人形浄瑠璃(文楽)の例を引くまでもなく、人形劇は決して子どもだけのものではないのです。

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(友松正人さん)

 

友松さん「大学時代は北海道にいたんですが、そこで人形劇サークルに入って人形劇をやっていました。若いうちはいろいろな表現に興味があるけれど、それがすべて詰まっているのが人形劇でした。文学も、美術も、音楽も、演劇も一度にできる。その深さにすっかり魅了されちゃって、卒業してもプロとしてやっていきたいと思い、ひとみ座に入ったんです。」

 

友松さんは大阪のご出身。劇団の運営である事務局業務も担当されていますが、NHK Eテレの「ねほりんぱほりん」で人形の操演も担当するベテラン俳優で、劇団の公演では演出を務めることも。普段からたくさんの方とお話をする立場ということもあり、会話を回すのが上手です。

           

友松さん「僕が入団した2年後に、彼(中村さん)が入ってきた。最初からとっても優秀で、劇団員の先輩連中の間でも話題でしたよ。すごい奴が入ってきた!って。」

 

「そんなことありませんよ」と、照れ笑いをするのはひとみ座代表を務める中村さんです。

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(中村孝男さん)

 

中村さん「出身は福島です。高校を卒業してからはしばらく郵便局員の仕事をしていたんですが、やっぱり俳優をやりたい、と思い直して、いろいろと模索している時期にひとみ座のことを知りました。あの劇団すごいらしい、って聞いてその噂だけで決めました(笑)」

 

人形劇をするのは初めてだったというのに、いきなり劇団の中で話題になってしまうくらい優秀というのはすごいですね。中村さんのどういうところがすごかったんでしょうか?

 

友松さん「コテツちゃん(中村さん)はね、とにかく静止するのが上手かった。人形の操作は、人間っぽい余計な動きが邪魔になるんだけど、ピタリと止まって、呼吸をコントロールするとか、基本的な技術が最初からできていた。あと、小道具や人形を作るのもとっても上手でね。」

 

劇団では、俳優であっても自分が遣う道具を自分たちで作るのは当たり前。そういう作業も中村さんは上手にこなしたんですね。その確かな技術に加えて、温和な人柄もあり、2012年からは50人を超える劇団員の中心となる代表として、ますます精力的に仕事をしています。

 

中村さん「友松さんは、威勢のいい先輩でした。古参の人たちに何か言われても『俺はこういうのが面白いと思う』と言って、自分で脚本を書いて、劇団内の仲間を集めて実現しちゃうみたいなパワーがあって…」

 

友松さん「先鋭的すぎるよね。人形劇の舞台裏を描くような人形劇を作っちゃったもんだから、めちゃめちゃ怒られたなあ。」

 

中村さん「でも、面白かったし、みんなにも一目置かれていましたよ。」

 

入団当時のことを思い出しながら話してくれる二人の顔は、学生時代からそんなに変わっていないんじゃないかな?と思うくらいに、若々しく楽しそうです。

 

地域に根ざしたプロフェッショナル劇団として

 

二人が入団してしばらくは、倉庫のような稽古場だったこの場所に、ひとみ座は簡単な公演もできる「スタジオ」を備えたビルを建てることになりました。それは、この場所に根ざして地域に表現をしていくのだというひとみ座の思いが結実し、形として現れたものだったのかもしれません。

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(ひとみ座の芝居に使う人形は、ひとみ座のアトリエで製作される。スタジオには、100を超えるレパートリー作品の登場人物たちが静かに眠っている)

 

1989年(平成元年)からは、地域の人たちに「世話人」となってもらい、年に2回スタジオで「ひとみ座寄席」の催しを始めました。これにより、地域の人たちがひとみ座のスタジオに来ることができるようになりました。夏には「おやこ夏祭り」を開き、子どもたちにも遊びに来てもらう機会を増やしました。高津区で毎年行われている「かわさき市民プラザ人形劇まつり」も、もともとはひとみ座が主導してアマチュア人形劇の裾野を広げていったものなのだそうです。

 

「ひとみ座寄席は、長く続いていて楽しみにしてくれている人も多いです。落語のファン層を考えると、どうしても年齢は高くなってしまうのですが、若い人にも興味を持ってもらいたいですね。」と、話す中村さんが手にしているのは、ブタの人形?

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(人形を操作する中村さん)

 

「♪ブタが道をゆくよ、ブンチャッチャ、ブンチャッチャ…」

 

中村さんが歌いながら動かすと、何もない空間が突然、外の景色に変わりました。ブタさんがご機嫌に歩いていくその道がはっきりと目に見えるよう。友松さんがおっしゃっていた中村さんの凄さが垣間見えて、思わず息を呑みます。パントマイムにも通じますが、人形のどこが動いていて、どこが止まっているかがとても大切です。人形に魂が入る瞬間を見ると、子どもでも大人でも一瞬で心を掴まれてしまうのですね。

 

ひとみ座は、このような小作品のレパートリーを持って、3人から4人のチームで市内の幼稚園や保育園へ、また7人のチームで小学校での公演に行きます。

 

また、川崎フロンターレファンの方は、試合日に等々力競技場でふろん太とわるん太が出てきて「席を詰めてくださいね」と観戦マナーを案内する人形劇をみたことがありませんか?実はあれも、ひとみ座の人形劇なんです。

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(写真:2017年に中原区役所で行われた「こすぎナイトキャンパス×カワサキアリス ロミオとジュリエット」で参加者に人形操作を指導する中村さん)

 

友松さんは「この地域は、人とのつながりが残っている地域なんだな、と常々感じています。元住吉の商店街を通って、ここに来てくれる人たちには感謝したいし、こちらも人形劇で商店街や地域を盛り上げていきたいんです。」と話します。

 

世界と戦える力で、地域を育てていく

 

ここ数年で一気に地域にも「インクルーシブ」という言葉が定着してきましたが、ひとみ座は 1981年(昭和56年)には「デフ・パペットシアター・ひとみ」という、ろう者と聴者が共に人形劇を作って発表する劇団を立ち上げています。セリフがない代わりに、観客の想像力を呼び起こし、国境や世代差など、さまざまな壁を越えていく力を持っています。

 

中村さん「ひとみ座は、1969年(昭和44年)に、財団法人(2011年より公益財団法人)現代人形劇センターを立ち上げました。そちらは、人形劇文化全体のための活動をしています。各地の伝統人形劇やからくり人形の研究、乙女文楽の継承、アジアや世界の人形劇の研究と招聘、ろう者と聴者がともに人形劇を創るデフ・パペットシアターのプロデュースなどをしています。」

 

乙女文楽というのは、人形浄瑠璃から発展した女性によるひとり遣いの人形芝居で、文楽の人間国宝、桐竹勘十郎氏に指導を仰ぎつつ、「傾城阿波の鳴門」などの文楽の演目を上演します。かなり本格的で、歴史好き、伝統芸能好きにはたまらない舞台です。2007年(平成19年)からは「乙女文楽子ども教室」も行っており、こちらは男の子も受けることができます。

 

友松さん「こういった活動は海外でも評価を受けていますが、それを地域でも見せられることに価値を感じています。最近中原区とも話をして、より多くの方にひとみ座の芝居を見に来ていただけるような提案をさせてもらったばかりです。」

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(ドン・ガバチョの人形の持ち方を教えてくれる友松さん)

 

中村さん「こんなご時世だけど、やっぱり芝居の魅力は『量産できない』ということ。見てみないとわからない、生で、そこで人形が動いているのを見るとワクワクする、そんな経験をあらゆる人にしてほしいんですよね。」

 

友松さんや中村さんが今、力を入れるのは「ひとみ座パペット・ラボ」。学生や会社員など、別の仕事をしていても人形劇に興味がある人に向けて、有料の講座を開いています。少人数制で約4か月で10回ほどの授業があり、昨年は中学生の参加もあったそうです。

 

中村さん「人形の操作や発声なんか、ちょっと自分の領域や表現力を広げたいというような人が受講してくれるんです。人形劇がいろいろな人の人生に役立つならうれしいですね。特殊な表現ではあるけれど、いろいろなものに応用できるんです。」

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“世界で認められた技術を、地域の人たちへ伝えていくこと”。それはとっても意義のあることですよね。芝居づくりは冒険に似ていると思います。好奇心を持って、新しい航路を開き、その先で出会った人たちと交流することでインスピレーションをもらって、未知の海原へと漕ぎ出していく。

 

ひょっこりひょうたん島の登場人物たちのように、仲間がいればどんな荒波も乗り越えていけます。いくつになっても、つねに心をワクワクさせてくれるものを求め、冒険を続けていく友松さん、中村さんの姿を見て、前進する勇気をいただきました。ありがとうございました!