この街大スキ武蔵小杉

コスギーズ

武蔵小杉で活躍する人を紹介します!

2024.01.12

つかさサンプル代表取締役 田中信司さん

コスギーズ!とは…

利便性や新しさだけでなく、豊かな自然、古きよき文化・街並みもある武蔵小杉は「変わりゆく楽しさと、変わらない温かさ」が共存する素晴らしい街です。そんな武蔵小杉の街の魅力をお届けするべく、この企画では街づくりに携わり、活躍している人をご紹介していきます!

 

つかさサンプル代表取締役 田中信司さん

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「食品サンプル作りにはマニュアルがありません。すべての工程は自分で考えて、形にしていくのです」

飲食店のディスプレイに並んでいる食品サンプル。

武蔵小杉の飲食店でも目にしますし、非常にリアルに作られていて、メニュー選びにとても役立ちます。

この食品サンブルを作る会社が川崎にあるのをご存知でしょうか?

 

宮前区にある「つかさサンプル」さんにお邪魔して、知られざる食品サンプル作りの現場を見せていただきました。

また二代目社長の田中信司さんに、その製作にかける情熱や今後の展望をお伺いしてきました。

 

つかさサンプル

宮前区水沢。

尻手黒川道路を黒川方面にしばらく進み、東名川崎インター入口を超えた先につかさサンプルの工場がありました。

「工場」と言っても着いたところは民家の庭先。

雰囲気がのどかで、見た目は一般住宅のような建物の昔ながらの扉の先に、目くるめく食品サンプルの世界が広がっていようとは、誰も想像していませんでした。画像

 

つかさサンプルは、1973年に現社長・田中信司さんのお父様である田中司好さんによって、川崎市多摩区に創業されました。

岐阜県郡上市八幡町出身の司好さんは、日本の食品サンプル業界の嚆矢とも言われる地元の企業で働いた後に、独立して川崎に食品サンプルの製作所を作ったのです。

もともと蝋細工で作られていた食品サンプルにひとつひとつ絵付けをしていく作業は、司好さんが長年鍛えた熟練の技。

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和食の持つ風合い、鯛の鱗や伊勢海老の殻の光沢など、絵筆を握って丁寧に再現していきます。

伊勢海老は今にも動き出しそうなくらいリアル感が演出されています。

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川崎市では平成9(1997)年度から、優れた技能で手仕事をする職人を「かわさきマイスター」として認定し、教育現場やイベントなどで技能を発揮してもらう制度があります。

司好さんは平成21年にかわさきマイスターとして認定されました。

認定により川崎市主催のイベントでつかさサンプルの食品サンプルを目にする機会も増え、私たち一般市民の間にも、食品サンプル会社が川崎にあるという認知度が上がりました。

つかさサンプルから歩いて行ける場所に川崎北部市場があり、司好さんは時間があれば市場に足を運び、目の前に並んでいる魚や野菜などを観察しているそうです。

 

父の背中を見て育った二代目

そんな司好さんの背中を見て育った次男の信司さんは、小さい頃から家に併設された工場に出入りして、お小遣い稼ぎにお父さんの手伝いをして過ごしたそうです。

 

「この肉は僕が作ったんですが、父のやり方とはだいぶ違います。

父は筆で食品の細かい部分を表現していくことが多いんですが、僕はこの牛肉のサシの部分は、エアブラシを使って作っています。」

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「肉も、ホットケーキでもそうですが、何枚も集まって一つのメニューになっています。

その一枚一枚はどれも同じものはないですよね。型をとってたくさん作って、まとめればいいわけじゃない。この蜂蜜が垂れる感じも、全部違うんです。

こういうものをどうやって表現したらいいか、どんな道具で何ができるか、常に考え、探しています。」

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こんな特殊な仕事を継ぐことはできないと思っていた

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信司さんは、昭和49(1974)年に司好さんの次男として生まれました。

「自然の多い多摩区で生まれ、宮前区でのびのびと育ちました。

子ども時代は運動が好きで、野球や卓球をしていましたが、お父さんの影響で絵を描くことも好きでした。

小中高と地元の学校を出て、調理の専門学校に進みました。」

 

はじめから家の仕事を継ぐことは考えていなかったのでしょうか?

 

「父がやっていることは特殊なので、継ぐことなんかできないと思い込んでいたんです。

飲食業には前から興味があったし、何か手に職をつけたいとは思っていたので、調理師の勉強をしようと考えました。」

 

どんな日々でしたか?

 

「新しいことを学んで楽しかったのですが、今思えば、この技術は食品サンプルのあれに活かせるとか、こういう飾り付けや盛り付けは見栄えがするという風に、何かと家の仕事のことを思い浮かべていました。」

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どこかで無意識に、食品サンプルの仕事を継ぎたいと思っていたのでしょうね。

 

「そうですね。結局、20歳からはここで働くことになりました。父は最初から継がせたいと思っていたようです。

調理の勉強をしたことで、食材の色や盛り付け、調理方法が学べて食品サンプル作りにも大いに役立っています。」

 

どのような点で?

 

「僕らの仕事はお店に出向いて、調理場にいる方に話を聞いて、スケッチをしてサンプルを作るんですね。

料理人の方は専門用語を使う方も多いんですが、そういう時には言葉が通じるのでうれしいです。」

 

マニュアルのない世界で

「食品サンプルのハンバーグは何色だと思いますか?と聞くと、大体の人が茶色と答えるんですが、ベースはねずみ色に近いんです。

最初に黄色で着色して、つぎに明るい茶色をのせてそこにこげ茶を足していきます。

子どもたちに話をするときには、お母さんが料理をしているところをよく見ているとわかるよと伝えます。

実際に自分も料理のプロセスを観察して色付けの時に役立てています。」

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お父さんの会社に入って実際に働くというのは、お手伝いをしていた時とは全然違ったのではないでしょうか。どんな発見や苦労がありましたか?

 

「父は、本当に昔ながらの絵に描いたような職人なので教えるのがうまくないんです。

感覚で作っているので説明ができない。食品サンプルの作り方にはマニュアルもないので、技は見て盗んで、あとは自分で考えるしかなかったです。」

 

食品の形はどのようにして形成するのですか?

 

「シリコン樹脂で本物の食品から型をとって、そこに液体のビニール樹脂を流し込んで形を作り、オーブンで固めるという工程で作ります。

本物から型をとるので形がリアルでしょう。そうやって出来上がったものに、色をつけていきます。

食品サンプルは人の目を引きつけないといけないので、本物より少し鮮やかに着色します。」

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今までで一番苦労したサンプルは?

 

「昨年の『かわさき推しメシ』のグランプリになったフランス料理のサンプルです。

調理師の専門学校に行っていてよかったと思うのはこういう時です。

あの料理を作る工程をシェフはほとんど専門用語で説明してくれましたから(笑)。」

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(写真:「かわさき推しメシ2022」でグランプリに輝いたフランセーズ・ラ・ポルテの「信州サーモンと北海ずわい蟹 彩野菜のケーキ仕立て」の食品サンプル)

 

「どこでとれたずわい蟹とか食材の全てにこだわりがあるんです。そのバランスも考えながら、見せ方や盛り付け、色を決めていかないといけない。

こだわりをもった職人さんに納得いただけるサンプルにするには、そういう部分が大切なんです。」

あのクオリティを見て、つかさサンプルさんのサンプルが欲しい!という気持ちで「推しメシ」に応募された店舗さんもたくさんいらっしゃったような気がします。

 

「かわさきのマイスター」として

2022年に、信司さんも「かわさきマイスター」になりました。

あらためて地域の中で活動する意義ややりがいを感じられているのではないでしょうか。

 

「今までも父の助手として物づくりの授業やマイスターの活動に参加してきました。

地域の人たちにものづくりの良さを伝えようとしている父の背中を見ていたので、自分もそういう存在として活動できるのは嬉しいです。」

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かわさきマイスターはどのように認定されるのでしょうか?

 

「マイスターになるには職歴25年以上という条件があり、書類審査と対面の2回の審査で評価されるんです。

審査する人によってサンプルを見る部分が全然違っていて勉強になりました。

自分の固定観念で作っていてはだめで、相手が要求してくるものに答えられるように作らなければと思いました。」

 

かわさきのマイスターとしてこの地域に感じていることや思いなどはありますか?

 

「当たり前のようにここに住んでいるのでいいところを聞かれてもわからないんですが、昨年から市内のイベントによくお誘いいただくようになり、川崎には人とのつながりがあるんだなと思いました。」

 

私たちもさまざまなイベントでつかさサンプルさんのワークショップなどを見かけて、宮前区にこんな会社があるんだと知ることができました。

 

「宮前区にはこれといった特色が何もないし、川崎区で流行っていることはここでは流行っていない。

でもそんな地域をつなげようとイベントを頑張って行っている人がたくさんいますね。」

 

信司さんご自身にもお2人の娘さんがいらっしゃるのですね。ものづくりを通じて子どもたちに伝えたいのはどんなことでしょうか?

 

「自分の子どもたちに対しては自分でやりたいことは自分で見つけてということを伝えたいです。

ものづくりも好きですし、文化祭の装飾なんかも積極的にやっているようです。

狭い世界ではなく、広い世界を見てほしいと思っています。」

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(写真:地域で子ども向けワークショップも)

 

「地域の子どもたちにはものづくりに興味を持ってもらえるように、自分ももっと働きかけていきたいです。食品サンプルを作っているのは川崎ではうちだけです。

こんな会社があるんだよ、楽しいよってまずは知ってもらって、イベントなどを通じてその場でお話もしています。

その時は忘れちゃうかもしれないけれど、あとからこういう職業があったなって思い出してもらえたら嬉しいです。」

 

ローカルからグローバルへ

昨年から今年にかけては海外へ進出する機会があったとお伺いしました。

 

「川崎市の海外支援制度があって、ミニチュアのキーホルダーの海外展開を始めました。

その関係で海外での展示会があると聞き、実際に出向いて食品サンプルの説明をし、商談をしました。」画像

 

海外の反応はどんな感じでしたか?

 

「素直にオーバーリアクションしてくれるので、励まされますよね。

空港でも税関職員が『なんだこれは』と言って、手にとって遊び始めるんです。

仲間を呼んできちゃったりして、食品サンプルを囲んで輪ができて和みました(笑)。」

 

行かれたのはアメリカですよね?向こうの人たちはそういう遊び心がありますよね。

食品サンプルもおもちゃ感覚なんでしょうね。

 

「そうなんですよ。以前に海外で売ろうとして失敗した話も聞いていたのですが、実際に足を運んでみていろいろなことがわかりました。

僕は雑貨を売るお店に3社ほど商談に行ったのですが、特に西海岸では販売促進アイテムとしてはみていなくて、完全にホビー、おもちゃとして面白いと興味を示してくれました。」

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そうですよね、めちゃくちゃ面白いですよ。屹立した麺に宙に浮いたお箸が刺さってるんですもの。

また、食文化の違いもあるかもしれませんね。日本人は、食べるものの見た目に気を遣う人種なので、サンプルを見てきれいだと「食べたい」と思います。

しかし、アメリカの方はどちらかといえば、その食品に「何が入っているか」の方を気にします。

 

「海外で日本の有名な博多ラーメンを食べたのですが、間違えてビーガンのものを注文しました。

円高の影響もありますが一杯3,000円以上を払ってみんながこれを食べているんだと思うと、確かに文化の違いを感じました。」

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「ホビーやノベルティとして商品作りをするといいんじゃないか、なんてアドバイスをもらって帰ってきました。

今はeBayで通販しているんですが、カナダやセルビアから注文が入るんですよ。」

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すごいですね。売れる国の傾向なんかがわかると面白そうですね。

 

「食品サンプルは日本発祥の文化なので、元祖としてのクオリティーを海外の人に知って欲しいですし、それがまた新たな価値に繋がっていくのなら、こんなに面白いことはないと思います。」

 

宮前区には何もないと信司さんはおっしゃっていましたが、つかさサンプルがあるじゃないかと私は思いました。

 

お父さんの手仕事にかける思いと技術をしっかりと受け継いで、それを海外に向けても発信していこうとしている信司さんは、間違いなく川崎が誇る唯一無二のマイスターでした。

また同時に地域の子どもたちにとっても、道なき道をゆくものを照らす、広野の一つ星のような存在に違いありません。

 

受験生の子どものために、私もひとつ験担ぎカツ丼のキーホルダーを買って帰りました。

信司さんの「自ら考えて、形にしていく」探究心と、揺るぎないものづくりへの情熱にあやかって、我が家にも温かい春が来るといいな。

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(写真:2023年12月 親子でものづくりをする「つかさサンプル」の工場にて)

 

プロフィール

田中 信司(たなかしんじ)

有限会社つかさサンプル 代表取締役

 

川崎市出身。

川崎市宮前区で食品サンプルの製造販売。

 

2019年に2代目就任。

2022年かわさきマイスター認定。

 

飲食店だけでなく展示会やテーマパークやCM 、TV用などでも食品サンプルを製作。

また、食品サンプル製作体験の講師も行う。Webshop開設以降、海外からの注文も広がっている。

 

ライター プロフィール

Ash

俳優・琵琶弾き

 

「ストリート・ストーリーテラー」として、街で会った人の物語を聴き、歌や文章に紡いでいくアート活動をしている。

旅とおいしいお酒がインスピレーションの源。

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