この街大スキ武蔵小杉

コスギーズ

武蔵小杉で活躍する人を紹介します!

2023.05.14

NPO法人みどりなくらし 代表 堀由夏さん

コスギーズ!とは…

利便性や新しさだけでなく、豊かな自然、古きよき文化・街並みもある武蔵小杉は「変わりゆく楽しさと、変わらない温かさ」が共存する素晴らしい街です。そんな武蔵小杉の街の魅力をお届けするべく、この企画では街づくりに携わり、活躍している人をご紹介していきます!

 

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武蔵新城の町に、NAYAというコミュニティスペースがあります。なや… 納屋? 

 

築100年の納屋をリノベーションして作られたこのスペースには、子育てをするお母さんたちにとって心強い味方になってくれる「魔女」がいるというのです。

 

噂の真偽を確かめるために、コスギーズ取材隊はNAYAにやってきました。そこにいたのは、ストレートの長い黒髪、黒がよく似合うスレンダーなスタイルが確かに魔女っぽいけれども、子どものようによく笑い、よくしゃべる明るい女性でした。

 

でも、その女性… 堀さんのお話を聴くうちに、本当にこの人は魔法使いなのかもしれない、と思う瞬間が幾度もありました。意外で偉大なご自身の半生と、精力的に手掛けている「みどりなくらし」の活動内容をご紹介しながら、その魔術の一端をお目にかけたいと思います。

 

コミュニティスペースNAYAとみどりなくらし

 

まずは、堀さんに媒体の説明をさせていただきましたが、それを丁寧に聴いた後、「じゃあお礼に」とばかりに堀さんの展開するNPO法人みどりなくらしの活動についても、プレゼンをしていただきました。インタビューの中で聴こうと思っていたことではありましたが、質問をされる前に自らプレゼンをしてくださったのは、堀さんが初めてです!

 

(思えば、この時から我々は堀さんの術中に陥っていたのかもしれません… 笑)

 

「みどりなくらし」は、2015年に生協の理事をしていた堀さんが「地域のために何かできないか」と考えて、仲間と一緒に立ち上げた任意団体でした。その後、2018年にNPO法人化しています。「みどりあふれる地球を残すため、多様な主体と連携して、子育て世代の人に心豊かな暮らしを提案します。」というのがそのミッション・ステートメントです。

 

「初めて子育てをする人たちが、どう子育てをしていいのか分からずに悩んでいるな、という印象があったんです。私自身はその頃少し子どもには手がかからなくなってきていたので、自分自身の経験や何かを生かして、そういう人たちの子育てを支えながら、地球や環境のことも考えられる、幅広い意味でのコミュニティが作れないかと…」

 

川崎は南北に細長くて地域ごとに課題が違う、とすぐに気がついた堀さんは、自分の住んでいる中部にフォーカスすることにしました。

 

食と環境をテーマに、子育て支援をして、地域とつながる

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みどりなくらしの活動は多岐にわたっていますが、直近のテーマは「孤立しない子育て支援、地域の繋がりをつくるひろば事業、食と農とエコな暮らし」。

 

川崎市のSDGsゴールドパートナーとして手掛けている事業は、6つのカテゴリに広がり、どの事業も「身の丈に合わせて半歩だけ踏み出すことで、繋がりのあるあたたかい社会を築くことができる」という信念に基づいています。

 

6つのカテゴリとは1「親子の集い」、2「講座の企画」、3「地域交流事業」、4「施設管理」、5「市民提案型事業」、6「そのほか」。

 

「NAYAでの『親子の集い』は毎週水曜日に行っています。行事食を作って食べたり、ハンドメイドで子どものための小物を作ったりね。近隣に住む親子同士が仲良くなって、グループを作ってNAYAを借りてイベントをやることもあるんですよ。」

 

講座の企画では、お料理教室や環境啓発のワークショップなどを企画するそうです。地域交流事業としてのイベントの企画もお得意で、思い返せば、私自身の堀さんとの出会いは、当時芸大に通っていた堀さんのお嬢さんとお友達が出演するディナー付きのクリスマスコンサートでした。ディナーはなんと、堀さんたちの手作りで、その創意あふれるお料理の数々と、お嬢さんの奏でるヴァイオリンの音色の素晴らしさにすっかり魅了されたものでした。

 

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(写真:2016年のクリスマスコンサートで提供された堀さんお手製のクリスマスディナー)

 

この時のコンサートでは、まだ小さかった子どもを連れて、地域でこんなに素敵なコンサートとディナーを楽しめることに、いたく感動したものです。

 

そこから、堀さんたちの活動に関心を持ち、注目していました。

 

これらの活動はすべて、相手側から「これ、みどりなくらしでやってみない?」と言われて、受け容れてきたものばかりだといいます。

 

「いつの間にか増えちゃった。でも、ぜんぶ地域と繋がっているから、無理なく楽しくやれるんです。」

 

幼稚園の先生に

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そんな堀さんご自身は、どんな人生を歩んできたのでしょうか?

 
 「私、幼稚園の頃から幼稚園の先生になりたかったんです。」

 

みんなが後ろに下げた机の上に乗って走り回るような子だった、という堀さん。由夏、という名前に込められた、奔放で自由であれという願いを体現していた子ども時代に、憧れたのは幼稚園の先生でした。

 

「小さくて可愛いものが好きだったんです。ぬいぐるみとか、お人形とかも大好きで。自分が2歳になる前に妹が生まれたことも影響しているかもしれません。」

 

ご自身は転勤族だったので、幼稚園2園、小学校3校、中学校3校とそれは多くの学び舎を渡り歩きました。中学校2年生から高校3年生までを過ごした静岡が、もっとも長く、友達もたくさんできた場所でした。人の話を横で聞いていて、いつでもタイミングよく会話にすっと入っていけるコミュニケーション力は、転校を繰り返した経験から身に付いたのですね。

 

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中学時代に洋楽にハマり、バンド活動に明け暮れた高校時代、大学ではバイクも乗り回し… しっかりと青春を謳歌したそうです。幼い頃からの夢をかなえるために進んだのは、東京学芸大学の教育学部。幼稚園教諭になるコースとしては、かなり高学歴と言える道を敢えて選び、幼児教育をみっちり勉強し、いよいよ卒業!晴れて幼稚園の先生になりました。

 

「それがね、3ヶ月で辞めちゃったんです」

 

ええっ!?20年近く思い続けた夢を、たった3ヶ月で?

 

「なんか違ったんですよ。幼稚園の先生って、子どもといる時間が全然ないんです。雑務が多くて。それに、私が大学で習ったのは『自由保育』といって、ある程度子どもたちを自由に遊ばせて、身体を動かしていくなかで、子どもたちの成長を支援するという形だったんですが、就職した幼稚園は、真逆で。これはだめだと思って、すぐに退職しました。」

 

その後、塾の講師などをしながら働き、結婚相手に巡り合います。男の子が生まれ、堀さん自身も初めての母親業に勤しみますが、そのご主人と死別するという不幸が堀さんを襲いました。シングルマザーとして子育てをすることになった堀さんは、お母さまの実家だった豊橋に居を移していたご両親のもとに身を寄せますが、やがて一人で子育てをすることに決め、学生時代を過ごした小平へ戻ってきます。

 

「もちろん大変だったんですが、それでも自由な方がありがたかった。楽天的なんですよ、何においても。多少困っても、友人がいる町ならなんとかなるし。」

 

自身の子育て

 

離れて暮らしてはいても、初めての子育てで実践するのはやはり自分の母親に教わったことでした。

 

「とにかく食事を丁寧につくる母なんです。社宅だったし、お金持ちじゃないのに、グラタンはグラタン皿で、和食は季節感のある器でというふうに本当にたくさんの種類の食器が家にありました。食のことだけはきちんとしよういう意識の高い人。いつでも、家に帰るとお母さんの手作りおやつがあるうちで。贅沢なんですが、実はちょっと嫌だったんです。ジャンクなスナックを食べている友達を羨ましく思うこともありました。」

 

それでも、健康な身体に育ったことを感謝しながら、いつしか、子どもの食生活を整えることは堀さんが一番大切にすることになっていました。息子さんにも、再婚後に生まれた娘さんにも、自分の手を離れる時までは虫歯が一本もなかったこと、年中から高校卒業まで、1日も学校を休まなかったことが自慢、と笑顔を見せます。

 

生活習慣を乱さないように気を付けて、夜は決まった時間に寝かせ、必ず絵本の読み聞かせをしました。堀さんにそっくりでまったく落ち着きがなかった、という息子さんは、レゴで遊び始めるとすごい集中力を見せました。

 

「小さい時の勉強は、親が見てあげるのがいちばんいいと思います。リビングで宿題をさせて、この子は何が得意なのかな、どういうところでつまずいているのかなって。」

 

レゴが大好きだった息子さんは、やがて建築学科に進み、修復された熊本城の空中見学通路の設計を手掛けるなどして、構造設計者として栄誉ある賞を受賞することになります。

 

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写真:子育て中の堀さん

 

東京藝術大学に進んでヴァイオリニストになった娘さんに関しては「びっくりするくらい手がかからなかった」という堀さん。

 

「最初は街の音楽教室に行っていたんですよ。楽器を持たせたら、とにかくずっと練習をしているんです。そんなだから、他の子が10年くらいかかるところを、1年くらいでマスターしちゃいました。これは、専門の先生についたほうがいいよ、って周囲の人たちが勧めてくれて、たまたま芸大の先生に師事することができたんです。」

 

二人とも、小さい時に好きなものに出会えたのがラッキーだった、と振り返ります。そうしたら、好きなことを伸ばしてあげるために親は協力できるんですね。

 

大学時代に堀さんが学んできた「自由に個性を伸ばす教育」は、こうしてご自身の子育てに余すところなく生かされました。しかし、堀さんご自身が持つ能力を社会のために活かすには、もっと広いフィールドが必要でした。

 

コミュニティのなかで

 

安心できる食材を確保するという観点から、どこに住んでいても生協に加入した、という堀さん。川崎には2001年に引っ越してきて、ここでも生協パルシステム神奈川ゆめコープ(現パルシステム神奈川)のイベントなどに積極的に参加しているうちに、一組合員から理事になり、やがて常任理事として八面六臂の活躍をするように。

 

「食のことだけでなく、農業や環境を守る、というような意識も高まりました。商品開発だけじゃなくて、脱原発をするにはどうするか、憲法を守るには、というような勉強会に参加することもあり、平和についても学びを深めるきっかけになりました。」

 

フルタイムの会社員より忙しかった、と振り返ります。土日も仕事で家をあけることが多く、そんな時はご主人がまだ小さかった娘さんをつれて等々力のプールに連れていってくれるなど、サポートしてもらったそう。

 

その娘さんもしっかりと将来の道に向かって自分の足で歩き始めた頃、子育て中に学び貯めた多くの知見を、堀さんご自身のアイディアで地域に還元していくときがきました。堀さんは、生協の常任理事を任期満了退任後、パルシステム神奈川の補助を得て「みどりなくらし」をスタートさせます。

 
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「こうやって、都市部に住んでいると、自分の赤ちゃんができて初めて赤ちゃんに触る人って多いんですよ。慣れてないから不安なことばっかり。コミュニティの中で、みんなで子育てをする感覚を育てていきたかった。コミュニティが楽しくなれば、子育ても楽しいし、子どもが育つ環境や地域のことも大切にできますね。」

 

しばらくは、地域の中のさまざまな場所を借りてコミュニティづくり取り組んだ堀さんでしたが、すぐにこれではいけない、と気がつきます。

 

「いい活動をやっても拠点がないとダメなんです。ここに来ればいつもこんなことをやっている、ちょっと寄っていきたいと思える安心できる場所、つまり居場所ですね。そういう場所が、地域のお母さんたちには必要だったんです。」

 

堀さんは、いろいろなところに出向いてみどりなくらしの活動をプレゼンし、ことあるごとに「活動できる拠点がほしい」ということを発信しました。そうするうちに2016年、エリアリノベーションで盛り上がっている武蔵新城の不動産関係者と繋がりができて、築100年の納屋の使い道を考えている大家さんと出会います。コミュニティスペースとしての活用を提案し、リノベーションして生まれ変わった「NAYA」の管理をすることになりました。

 
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余談ですが、私に「NAYAに棲む魔女」の話をしてくれたのはこの不動産関係の方です。見事に大家さんの願いを叶えて、その先に生き生きとしたコミュニティを作った堀さんの手腕に敬意を評して、そう呼んだのでしょう。

 

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制度を変えるのは難しいから、地域の人同士がつながって、自分の望む形の社会を作っていくことが大切、と堀さんはいいます。

 

「大丈夫だよ、みんな同じことで悩んでいるよ。ここにくれば子育てをする仲間に出会えるよ、と支援のソフトパワーが集まる場所、地域の人が自分たちの子育てを応援してくれているんだっていう実感を持てる場所を作ることができたのは、本当によかったです。」

 
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「今日もこれから、新米ママがくるんですよ。」

 

取材の後に現れたのは、NAYAで「暮らしの保健室」という活動をされていた「コミュニティナース」のれいこさん。昨年初めてのお子さんを産んで、今はみどりなくらしの活動の理解者であり、利用者でもあるんですね。

 

コミュニティは持ちつ持たれつ。「堀さんところでこれできない?」「うちではできないけれど、こういう団体があるよ」という風に別の団体に繋ぐこともできます。

 

この日れいこさんがやってきた理由は、「暮らしの保健室」が今後の活動のために実施したクラウドファンディングに堀さんたちが賛同して、ファンディングしたそのリターンである「グラレコ」を描くため。れいこさんは絵が上手で、赤ちゃんを傍に寝かせながら、グラレコでみどりなくらしの子育て支援の内容をわかりやすくまとめてくれました。

 

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こちらがそのグラレコです。とってもわかりやすくまとまっていますね。

 

「コロナもあって、地域の繋がりはより重要になってきました。捨てたもんじゃないな、ってこともあるんですよ。息子夫婦は、2歳と半年の姉妹を育てているんですが、在宅になって息子が家にいるから、ちゃんと子どもを見ているんです。育児は大変だって自分ごとにして悩んで、連絡をくれたりするんですよ。」

 

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巻き込み、巻き込まれの魔法

 

お話を聞いていて、堀さんの使う魔術は、ご自身の経験に裏打ちされた「肯定の魔法」だったんだな、と思いました。

 

あなたにはこれができるって地域の中で能力を認め合って、じゃあこれをやってみない?と仕事をあげて、もらって、その成果を広げていく。

 

子育ては楽しい。お母さんたちが子育てを楽しんでいる地域は明るい。あなたはすごいよ、と堀さんはすべてを肯定します。どんなものでも、目の前に現れたものに対して会えてうれしい、と伝えています。

 

地球や環境のことも難しいことじゃない。一歩だけ踏み出して、楽しみながらみんなで守っていけたらいいな、という堀さんの願いが、自分のお子さんにも、地域のお子さんにもちゃんと伝わって、幸せの魔法が広がっていきます。

 

堀さんがみどり色の杖をふるたびに、地域のあちこちに小さな渦ができて、巻き込み、巻き込まれて笑顔の花が咲いていきます。

 

プロフィール

堀 由夏(ほり ゆか)

NPO法人みどりなくらし理事長

パルシテスム神奈川の理事を5年、常任理事を6年務め、2015年に退任し任意団体を立ち上げ、3年後に法人化する。食と農と環境をテーマとし、川崎で子育て世代を中心に地域の人たちを繋げ、つくることと食べることや季節を楽しむことを伝え、暖かい地域社会づくりと心豊かなくらしを提案している。東京学芸大学教育学部幼稚園科卒業、幼稚園教諭1種免許取得。

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ライター プロフィール

Ash

俳優・琵琶弾き。「ストリート・ストーリーテラー」として、街で会った人の物語を聴き、歌や文章に紡いでいくアート活動をしている。旅とおいしいお酒がインスピレーションの源。

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カメラマン プロフィール

岩田耕平

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